DTPソフトといえばAdobeが最大手

レイアウトの標準ソフトだったQuarkXPressに代わるレイアウトソフトとして、Adobe社が開発したInDesign(インデザイン)が2001年に発売され(日本語版)、2004年にはバージョン3にあたるInDesign CSが販売されました。CSとはCreative Suiteのことで、プロ用の各種ソフトをセット販売する形です。DTP三大ソフトと呼ばれるInDesgin、Photoshop、Illustratorに、ホームページ関連のソフト類を組み合わせたバージョンや、ホームページ制作を中心としたソフト群のバージョンなどいくつかのパターンがありました。CSはその後バージョンアップを重ね、2012年にCS6が発売され、その後はCreative Cloud(CC)と呼ばれる形(パッケージ版ではなく、インターネットからダウンロードして使うもの。サブスクリプション形式とよばれる販売方法で、月単位や年単位で使用料を支払う)へと進化。事実上、商業印刷用(プロ用)DTPのスタンダードソフトとなっています。QuarkXPressは、今でもプロの現場で使われていますが、かつてのように広範囲では使われなくなっているようです。

QuarkXPress

Aldus PageMakerを乗り越えたQuarkXPressは、その使いやすさと安定度の高さから印刷業界に広まりました。バージョン2のころには、多くの印刷所や編集・デザイナーの手に届いていたのです。続くバージョン3は、機能はアップしたものの操作性や見た目は前のバージョンを引き継ぎ、それはバージョン4でも同じでした。それ故「慣れたソフト」をそのまま使うことのできる便利さと、「安定度に対する信頼性」から、QuarkXPressの牙城はなかなか崩れませんでした。

QuarkXPressには、日本でのバージョンアップ(既存ユーザーを対象に、新規購入よりかなり安く新機能版を販売するサービス。ソフトウエア業界ではごく普通に行われていた)頻度が低いという「特徴」がありました。1998年に出されたバージョン4に続くものとして、2004年にようやくバージョン6が出されました(日本版にバージョン5はない)。これほどバージョンアップの遅いソフトウエアの場合、ほかの同類ソフトに地位を奪われる場合が多いのですが、QuarkXPressの場合は少々勝手が違いました。原因としてはいろいろ考えられますが、一番の理由は印刷・出版業界の保守性にあると言えるでしょう。

バージョン4発表時、それまでのユーザーに対して行われたバージョンアップサービスで、クオーク社はそれまでと比べるとかなり高額なバージョンアップ料金の設定を行いました。さらに新規購入では、以前の倍以上という驚くべき価格設定を行いました。その結果、既存ユーザーの中から不満が噴出し、「不買」を決め込む者も少なからず出てきました。これによりバージョン4の普及が鈍化したといわれています。その後、数年の間、バージョン3のまま使い続けたユーザーは多く、印刷所でもバージョン3をも対象にしたファイル受け入れをしているところが多い状況が続きました。そんな灰色の時期の中で、Adobe社は着々と新しいレイアウトソフト・InDesignを開発していきます。同ソフトの初めのバージョンが出たとき、多くのプロユーザーの期待は大きかったものの、まだ問題点も多く、QuarkXPressを超えるものではありませんでした。しかしバージョンが2から3へと上がるころには完成度が上がり、印刷業務に問題なく使えるものへと成長していったのでした。

InDesign

InDesignの強みは日本語の組み版に力を入れた点でした。QuarkXPressはレイアウトソフトとしてはとても安定しており、使い勝手もよかったのですが、バージョン4の時点では、日本語の縦組みに対していろいろ不満が出る部分が多く、昔ながらの印刷工程を知っている者にとっては満足できるソフトとは言えませんでした。その点に目を付けたのか、Adobe社は「縦書きに強いレイアウトソフト」としてInDesignを登場させたのです。

その後、周りのデザイナーや印刷会社にQuarkXPressを使わなくなる状況が見えだしたため、当社も移行を実施しました。InDesignのバージョンが2から3(CSの初めのバージョン)になるころには完全移行を果たしています。DTPの業務では、作る印刷物によってメインで使うソフトウエアが異なります。ページ数の多い冊子や書籍では、InDesign系のレイアウトソフトが多様されますが、数ページのパンフレットやチラシ、ポスターなどでは後述のIllustratorが多用されています。またIllustratorは、図版や表、グラフなどを作る場合にも使います。Illustratorでこうした部品を作り、InDesignに張り込んでレイアウトをする形も多く、その際も、両ソフトが同じメーカーであることから相性が良かった点も、普及に拍車を掛けたのだと思われます。

Photoshop

画像ソフトとしてPhotoshopに代わるものはいろいろ出ましたが、いまだにその牙城は崩されていません。もともとは写真の修正などをするソフトでしたが、画像ソフトとして高い機能を持つため、さまざまな利用方法が考え出されました。立体的な文字を作ったり、写真などの画像を合成したり、いかにもコンピューターらしい美しい画像を描けたりしたため、多くのファンが付くことになったのです。Photoshopを使った合成やCG(二次元)の作り方を示す本もたくさん出版され、プロ必携のソフトとなりました。今でもその評価は変わりません。

Illustrator

Illustratorは、アメリカのMacromedia(マクロメディア)社のFreehand(フリーハンド=前Aldus社製品)と比較されることが多いですね(2005年、Adobe社はMacromedia社を買収しました)。Freehandユーザーも少なくなかったのですが、DTPで一般的によく使われているのはIllustratorであると言えます。

Illustratorは、ベジェ曲線と呼ばれるコンピュータならではの特殊な曲線を使って線を描きます。一度描いた線を簡単に修正でき、拡大・縮小も思いのまま。それ故にイラスト描きに多用され、またDTPの現場では、本に掲載するグラフや表、工業製品を描いたテクニカル・イラストの制作などでよく使われます。Illustratorに内在するグラフ機能は汎用性が高く、少しの訓練で高度なグラフを簡単に作ることができたのも、このソフトの普及に一役買ったと思われます。

またグラフィック・デザインの世界では、Illustratorを中心に作業が行われることが多くなっています。本や冊子など、文章が多く、ページ量も多くなるものはQuarkXPressやInDesignが使われますが、数ページのパンフレットや、ポスター、チラシなどは、Illustratorでレイアウトまでやってしまい、そのまま印刷所へデータを渡すということが多いのです。デザイナーのみなさんは、IllustratorとPhotoshopの二つで業務をこなすことが少なくありません。

Acrobat

アメリカのAdobe社が開発したAcrobatは、PDFを作ることを目的にしています(PDFについては「PDFって何よ」を参照してください)。このソフトも上記のCSに組み込まれて、その後のCCにも加えられていますので、今やDTPに不可欠なものとなっています。

Acrobatは、さまざまなソフトで作られた文書をPDFに変換するためのソフトです。PDFは使い勝手のよさから爆発的に普及し、今や、一般の会社や学校、行政などで配布するデジタル文書といえばほとんどがPDFになっていますが、商業印刷の分野では少し違った使い方をしています。

PDFは、それを閲覧することのできるソフト(一般的には無料のAdobe Acrobat Readerなど)があれば、どんなコンピューターでも開いてプリントすることができます。この状態を高品位、高解像度な印刷用データにおいても実現できるようになっているのです。以前は、DTPデータを印刷にかけるとき、Illustratorで作ったファイルなら印刷所でもIllustratorで開いて印刷していましたが、PDFによる印刷が可能になったため、ある規範に沿って作られたPDFなら、データを作った元のソフトはなんでもよいことになり、ファイル作成の自由度がぐんと上がりました。またフォントについても、それまでは制作側と印刷所が同一のフォントを所持している必要がありましたが、PDFにはフォントを「埋め込む」ことができるため、ファイル内で使われているフォントを印刷所が持っている必要がなくなっています。

こうした状況は、商業印刷の業界を大きく変化させました。今でもまだ古い環境で印刷用ファイルを作っているプロダクション・デザイン事務所・印刷所が残っているようですが、ほとんどはこのPDFによる印刷ができる環境へと移行しています。