2回目の「〜たり」を省略しない

ある方から、ご自分が書かれた文章をチェックしてほしいという依頼を受けたことがあります。何かの機関誌に掲載する文章だったようで、誤字・脱字や表現の間違いなどがあったら恥ずかしいからとのことでした。早速拝見しましたが、とてもよく書かれており感服した次第。ただ一点、気になる部分がありました。それは「〜たり〜する」という表現です。

その方の文章をそのまま出すわけにはいかないので一例として示すと「某会社のパーティーに出席してスピーチをしたり鏡割りをして」とあったのです。気になったのは「スピーチをしたり鏡割りをして」の部分。本来は「スピーチをしたり鏡割りをしたりして」と書きます。でもこの方だけでなく「〜たり〜たり」の二つ目の「たり」を省略する方が多いのです。実際、そうした省略がされている文章をよく拝見します。

省略される方の意見としては「たりたりと2回も出す必要はないだろう」「たりが2回も出てくると、無駄に長い感じがする」というものが多いようです。でもね、正しくは「〜たり〜たり」と、列挙する言葉それぞれに「たり」を付けるのです。それには意味があります。

以下の例を見てください。

  • (1)「カレーを食べたりコーヒーを飲んだりして話をして」
  • (2)「カレーを食べたりコーヒーを飲んで話をしたりして」
  • (3)「カレーを食べたりコーヒーを飲んで話をして」

(1)は、カレーを食べることやコーヒーを飲むことを同列に扱い、それらをしながら話をするという内容になっています。

(2)は、カレーを食べることと、コーヒーを飲みながら話をすることが並列になっており、カレーを食べることとコーヒーを飲むことが別に扱われています。

(3)は、上記の(1)なのか(2)なのか判然としないですね。読み手によって、とらえ方が異なってしまいます。

このように考えると、やはり2回目の「たり」は省略すべきではないと言えるでしょう。

新聞表記などの基準にもなっていると言われる『記者ハンドブック』(共同通信社刊)にも「『飲んだり歌ったり』のように動作や状態を列挙する場合『たり』を重ねるのが基本」(第13版・485ページ)とあります。またNHK放送文化研究所がサイトでも「繰り返す形にするのが本来の言い方・用法です」と紹介しています。

テレビのニュース番組などで画面下に出てくる文字に2回目の「たり」が省略されている場合がありますが「〜たり〜たりする」と重ねて表記する方が正しいし、誤解を招きにくいということですね。

「たり」1回の場合とは

「『たり』は重ねる」と書きましたが、1回でも良い場合もあります。以下はその例です。

「カレーを食べたりして話をして」

これは上記(1)〜(3)のように複数の内容を並列で扱っているのではなく一つの内容だけですので、読み手の誤読を誘うことがありませんね。

「たり」という言葉自体が、対象をあいまいにするというか、幅を持たせるなどのために使うことから、その意味においては「たり」が一つでも十分意味をなすし、言葉として「おかしい」と感じられないわけです。しかし二つ以上の内容を列挙する場合は、それぞれの内容にそれぞれ幅を持たせるために「たり」を使うわけですから、2回目の「たり」を省略しない方がよいことになります。

複数の内容を列挙する場合に使う「たり」は、それぞれの内容ごとにそれぞれ「〜たり〜たり」と「たり」を付けた方が、読み手の誤読を避けることができるでしょう。「たり」一つでは「足りない」ということですね。